「専門性」とは、一般に、ある職業に固有な専門的知識・技能を指す。したがって、いかなる職業でも、程度の差はあれ「専門性」は持っていることになる。これに対して、「専門職性」とは、「専門職」たるに必要な属性を指す。例えば、「高度の専門性」、「自治的職業団体の存在」、「職務遂行上の自立性」などがあげられる。したがって、教職の専門性については、専門職性の一つである「高度の専門性」にふさわしいものであるかが問われている。
専門職の属性としての「高度の専門性」は、リーバーマンによれば、次のような3点によって構成される。
(1)ユニークでその範囲と機能が明確に限定された、社会的に不可欠な仕事であること
(2)その仕事の遂行にあたって、高度に複雑な知的技術に重点が置かれること
(3)長期の知的な専門的訓練を必要とすること。
これを教職の実態と照らし合わせてみると、(1)については、教師の仕事は範囲が広く、「範囲と機能が明確に限定」されてはいない。(2)については、教師の仕事は、「高度に複雑な知的技術」が要求されるが、社会一般では「高度に複雑な知的技術」を必要とするとは考えない傾向がある。(3)については、大学における教員養成は、他の専門職と比べて「長期の専門的訓練」とはいいがたく、大学での養成を経ないで免許状を得る道もある。
このように、「高度の専門性」という点から考えると、教職は専門職として認められるために相応しい高度の専門性を確立しているとは言いがたい。教職において高度の専門性を有するためには、広汎で複雑な教育実践を十分学問的に裏付けることのできる教育科学を確立することが必要である。そのためには、第1に、教育研究において従来の「理論と実践の乖離」をなくし、「理論と実践の結合」を進め、教育研究の成果を、教職員の教育実践において共有すべき知的財産とすることである。
第2に、教育研究における共同研究体制の確立が必要である。教育活動という多面的・総合的研究対象は教育学研究者だけではなく、異なる分野の研究者や教育実践者との協力の下に研究を進めなければならない。大学・行政・学校現場の連携と共同による研究を拡大することが求められている。こうした形で積み重ねられた研究成果が、教職の専門性の核となっていくことが期待される。